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両利きの経営、逆輸入の可能性

最近はやりの『両利きの経営』では、”「改善」と「イノベーション」は両立できず、簡単にイノベーションはマネジメントできない”としている。経営書のヒットからもわかる通り、「うん。そのとおり」と思われた方も多いのではないか。

これに対し、岩尾俊兵は「そもそもイノベーションは結果であり、その取り組みこそが改善というプロセスではないか」とし、イノベーション・マネジメントの可能性を次のように述べる。

一般的に、改善は現場作業者中心の小さな活動の成果の積み上げであり、それはインベーション活動ではないと思われている。

しかし、仮に改善の9割がそのような既存の改善概念の範疇にあるとしても、残りの一割がもし大規模イノベーションにつながるような工程改善や開発、事業のサプライチェーンに影響を与えるものであるとするならば、経営者はそれを見逃すべきではない。問題解決の連鎖は、大きなイノベーションにつながる可能性がある。

考えてみれば、イノベーションの種を見つけた時にそれを実行できる組織であるかどうかは、全員参加型の小さな改善活動に慣れ親しんでいる組織であることが重要な要素になり得るのではないか。

つまり、改善活動はイノベーションを発生させること寄与するのだ。やっていたのですよと。でも、その果実を得るにはもちろん工夫が必要だ。

岩尾は、完成車メーカーの調査研究から改善活動から大規模イノベーションにつなげるために必要なこととして、以下をあげる。

・イノベーションに対するビジョン

・改善をイノベーションをつなげる人材の確保

・それを実行する組織の設計

・イノベーションまでに到達する長い道のりに必要な時間を許すこと

さらに岩尾は、経営者は1割りでも1%でもそれがイノベーションへつながるなら現在の改善活動の点検が必要だと訴える。

外国から新しく意味づけられ、輸入された経営ワードに飛びつくには注意が必要だ。日本的経営が逆輸入されていることもある。それは抽象化やコンセプト提示が苦手な我が国の弱みを示してもいると岩尾は指摘する。

平成生まれの若手学者この指摘=情念に、平成を生きた産業人はどのように応えるのか。

 

2022年2月25日東大アウトリーチ企画 MERC丸の内院生ラウンジ 岩尾俊兵(慶應義塾大学専任講師)『 イノベーションを生む「改善」』聴講より。

参考図書 岩尾俊兵『日本〝式〟経営の逆襲』 

企業メセナ アート・マネジメント

トヨタの企業メセナ「アート・マネジメント」支援のサイトがある。

https://www.nettam.jp/about/

1996年からトヨタは取り組んでいる。

https://www.nettam.jp/about/tam/publications/all/

当時、私はまったく関心がなかった・・・。

 

サイトには面白い記事が並んでいる。

https://www.nettam.jp/column/16/

「アートが何かの役に立つのではなく、アートにしかできないことをやろうとしている。月並みな言い方だけれど、アートが”多様性そのもの”であり、”正解”が存在せず、アイデンティティの”脱構築”を促すからに他ならない」

「解体されたアイデンティティは、アートによって生み出されたコミュニケーションによって再構築され、コミュニケーションとともに再解体される」

など、すでに組織内のダイバシティー議論そのものである。ヒントはありそうだ。

 

 

 

 

 

注目されるアート思考

イノベーションとは「社会に価値を持たらす革新」(エベレット・ロジャーズ)とされる。

現代のイノベーションは、近代で実現した科学者やエンジニアによる「技術の革新」だけに頼ることは限界があり、従来の論理思考だけも太刀打ちできない。そこで今、デザイナーやアーティストの潜在能力を活かすことが注目されているのだ。

従来の考え方、それは デザイナー(問題発見と解決)によるデザイン思考(創造的な問題解決)であり、これは、ユーザの不満を解消し便益を提供する方法である。しかしこの考え方から次のようなものを生み出すのことは難しいとされる。

例1)そもそも問題解決が価値創造につながらないもの

→扱いづらさに価値があるもの

例2)問題すら存在しないもの

→娯楽用品のように無くても別段困らないもの

例3)ユーザーがいまだ存在しないもの

→利用用途すら明確でない最先端技術の用途開拓など

そこで、

アーティスト(問題提起)によるアート思考(常識を揺さぶる、議論を巻き起こすこと)に注目が集まっている。

この思考は、常識外れのものや非現実的なものを生み出すことが得意で、問題解決が価値創造につながらないようなものも生み出すことができる。ただ、有用性の追求や全身的なイノベーションは得意ではない。そもそもデザイン思考とアート思考の志向は異なるのだ。

これが、アートの活動のイメージだとすると、その力を企業活動に取り込みイノベーションを起こすということになる。

 

引用・参考)森永泰史「デザイン思考とアート思考」日本経済新聞朝刊21年5月『やさしい経済教室』連載より

デザイン思考 Stanford  d.school

デザイン思考はユーザーイノベーションとは異なる。

ユーザーイノベーションの考え方は、「わざわざ企業がニーズを拾い上げてアイディアを考えなくても、ユーザーには少ないながらもアイディアの保有者が存在するので直接ユーザーにアイディアを尋ねればよい」というもの。したがて、

・優れたアイディアを持つところからそれは引き出すべき(リードユーザー法)

・特定のコミュニティ(ユーザー起動法)

・不特定ユーザーからアイディアを募ればよい(クラウドソーシング)

などがあるとされたきた。

他方、デザイン思考は「アイディアの源泉はユーザーの頭の中の未意識領域にあり、明確な答えを有しておらず、ヒントのみ有する」という前提に立っている。

したがってこちらが観察して、ヒントや答えをこちらが導き出す必要がある。しかもそれらは個々に違いがある。それら言語化できないニーズをどうやって浮かび上がらせるのかがポイントになる。

このプロセスは、スタンフォード d.school の「デザイン思考の5段階」などとして示されている。

1. 共感/理解

2. 定義・明確化

3. アイディア造り

4. プロトタイプ

5. テスト

「観察を通じて」ユーザーを理解することに、デザイン思考の特徴があるのだ。

アイディアのつくり方

このようにアイディアを生み出した経験はありませんか?


アイディアは既存のアイディアの組み合わせだ。事物の関連性からアイディアを見つけ出すことができる。

アイディア生み出す具体的方法は、

まず、資料集める。次にそれら資料を組み合わせ、その関係性を探る。しばらくは頭の中がごっちゃになり、曖昧な状態が続くことになる。

その手詰まり状態から離れ、それらを一旦心から放棄してしまう。劇や音楽、詩など、自分の想像力や感情を刺激するものに心を移す。未意識の創造過程を刺激するのだ。

でもどこからもアイディアはあらわれてこない。それは、入浴時や朝目が覚めていない時、散歩の途中など、最も到来を期待していない時に訪れる。

そうやて降りてきたアイディアは断片であることが多い。アイディアの全体像を見つけ、それを分かるようしなかればならない。この一瞬逃してしまうとアイディアの破片は陽の目を見ずに失われることになる。アイディアを現実に連れ出すことが必要なのだ。

次に現実の過酷な条件やせちがらさに適合させるためアイディアにたくさんの手を加える。また、理解のある人から批判を受けるなどのしつこさも必要だとなる。

良いアイディアはそれを見る人々を刺激するので、まわりの人が手を貸してくれる。それによって自分が見落としていた種々のアイディアの可能性が明かるみに出てくる。良いアイディアは自分で成長する性質を持っているのだ。


以上は、

元米国広告代理店役員ジェームス・W・ヤング『アイディアのつくり方』(翻訳昭和36年初版/米国初版1940年)の本の要約です。あまりにうす~い本なのでびっくりですが、大量消費されるノウハウ本の中でここまで長く残る本は稀でしょう。

 

従業員300名以下企業の管理職

中原淳(2021)『中小企業の人材開発』 東京大学出版会 では、従業員300名以下企業の管理職の実態が次のよう紹介されている。

・女性管理者は1割未満

・平均年齢は42歳

・部下数の平均は10名

・個人目標を有するプレイングマネジャーは全体の83%

・個人目標の達成に多くの時間をかけてしまう管理者は、「会社への貢献度」「管理者としての能力向上」においてそうでない人に比べて低くなる

・「重大クレームの対処解決」「管理業務の代行」「協力会社とのトラブル解決」「全社を巻き込んだり、社長直下のプロジェクト」など、管理者になる前から周囲よりも責任の重い仕事を任されてきた

・2割の人は管理職研修の受講機会がない

・会社指示による社外勉強会へ参加は、年に1回以上が8割。ただし、参加後に「社内メンバーと共有する」「自分の仕事に適応する」人は半数程度

・他方、自発的に社外勉強会に参加した場合は、「業務に適用する」人が8割、「メンバーと共有は」4割

・経営者との会話頻度は「月に1、2回」が8割であり、必要を認識している経営者自身の自社の管理者への教育へのコミットメントは低い

大学卒業後、私の入社した会社は㈱リクルート人材センターという人材斡旋を行うために㈱リクルートから独立してつくられた会社だ。当時は従業員250名程度の中小企業であった。私はその後従業員3000人の㈱リクルートへ出向・転籍をしたが、組織の印象はだいぶ異なっていた。言葉に表しにくいこの感覚の違いが、大手企業を中心とする人材開発施策の言説が中小企業にフィットしない理由の一つだろう。それらの事実に向き合い、深く考えることをしていなかった。

 

分業して調整

何かを行い、何かを達成したい時に、私たちは組織をつくる、組織を活用する。組織に頼る。

一人のひとの能力の限界を超えるための手段として、組織をとらえられる。しかし、人はそのような組織に依存してしまうことがある。そもそも生物が集団で行動することには、そのようなことが起こることが知られている。助け合うことが自然なのだ。

集まった人の総和を超える以上のことが組織では生まれなければならない。そうでなければ組織でやる必要が無い。もちろん、同じ目的をもった人たちが集まっていることが前提だ。

経営学の最初の問いかけは、効果的な分業を考えることである。

その後、そのデメリットを補完する調整方法を検討する。階層による調整が、現在でも有力な調整手段である。

組織の構造づくり(イメージは「組織図」)で分業が実現された後に、しくみやルール(イメージは「マニュアル」や「ルーチン」)などでその活動の調整方法が示されるのだ。

 

リーダーシップの議論経緯

狭義のリーダーシップ論変遷

管理者は、仕事の管理だけではなく時代の求める変化に立ち向かい、人々を率いるリーダーシップが必要だ。
リーダーシップを実現するには「共通の資質や特性がその人に求められる」という考え方と「特定の行動をすることでそれは実現できる」の2つの考え方が示されていた。
その後、リーダーシップは共通の資質や特定の行動ではなく、状況に対応した適切な方法があるとの議論が展開された。
しかしそれ以後も、相手と自分の関係や交流を考慮した考え方や、自分の感情を制御し相手の感情を読み取ることが重要である、フォロワーに奉仕するリーダーが求められるなど、新しい考え方が次々に提示されている。さて、現在、これから、注目されているリーダーシップ論は何でしょうか?

参考:高橋伸夫(2021)『コア・テキスト経営学キーワード』新世社